では、どうしていびきは私たちの体に負担をかけるのでしようか。それを理解するには、まずいびきのメカニズムについて知っておく必要があります。
鼻腔からのど、気竹支に至るまでの空気の通り道を「上気道」といいます。
寝ているとき、この上気道がなんらかの理由によって狭まると、呼吸をするときに空気抵抗が増えて粘膜や分泌物が振動します。この音がいびきの正体です。
つまりいびきは、空気の通り道が狭まっているにもかかわらず、無理やり呼吸しようとするために起こる音なのです。
上気道にはもともと、空気の出人の抵抗となる、凹凸や狭くなったところなどがあります。
こうした抵抗部分は、人ってくる空気を温めたり、空気に湿度を加えたり、また空気中のはこりなどが直接肺に入らないようにするなど、重要な役割を果たしています。
しかし逆にいえば、上気道にちょっとした障害(たとえば扁桃が腫れるなど)が起こっただけで、ただでさえ抵抗が多い空気の通り道がいっそう狭まり、いびきをかきやすい状態になってしまうということでもあります。つまり、構造的に誰もがいびきをかく素因をあらかじめ持っているわけです。
振動する部位としては、鼻翼、軟口蓋や口蓋垂(のどちんこ)、舌根部、喉頭蓋などがあげられます。
とくに振動しやすいのは軟口蓋で、いびきをかく人の多く(約75%)はこの軟口蓋の振動が原因になっています。
軟口蓋というのは、上あごを舌でなぞってみるとわかると思いますが、のど寄りの柔らかい部分です。歯ぐきに連なる前半部の硬い部分は硬口蓋といいます。また喉頭蓋というのは、のどの奥にあって、空気が入ってくるときには開き、食べ物をのみ込むときには気管に入らないようフタを閉じる役目を負っているところです。この喉頭蓋の粘膜が肥厚していると空気抵抗を強めることになります。
それにしても、どんなに大いびきをかくといわれている人でも、ふだん起きているときの呼吸では、それほどはなはだしい騒音(?)は出ません。いびきを医学的に定義すると「眠っているときだけに起こる異常呼吸音」というふうに表されるのですが、なぜ睡眠中の呼吸では、そのような騒音をともなってしまうのでしようか。
一つは、眠っているときの姿勢に関係があります。 私たちはふだん、立ったり座ったりして生活していることが多いのですが、眠るときは仰向けの姿勢になります。すると重力の影響で軟口蓋や舌根が沈み込み、空気の通り道である上気道を狭くしてしまうので、呼吸の際の空気抵抗を高めてしまうのです。
さらに、人は眠りに入ると全身の筋の緊張がゆるんできます。咽頭や舌の筋肉もゆるんで振動しやすくなります。ですからいっそういびきをかきやすくなってしまうのです。
もう一つ、起きているときと眠っているときでは、呼吸を調節している自律神経の活動も変化してきます。たとえば、夜、眠る間際に、鼻が詰まりやすくなるという人は多いと思います。これは自律神経が影響を及ぼしているためです。
自律神経には、交感神経と副交感神経があります。交感神経は、昼間、私たちが活発に活動しているときには、必要な酸素肌をしっかり休内に収り込めるよう、鼻の粘膜のに水分を減らし、空気の通り道を広げています。けれども夜になると、体を休ませるために交感神経は活動を弱め、代わって副交感神経が活動をはじめます。眠っているときは起きているときに比べて必要となる酸素の量も少なくて済みますから、人ってくる空気の量を少なくするために、副交感神経が鼻の粘膜の血管を広げて粘膜を腫れさせるのです。
鼻の通りが悪くなれば、当然、空気抵抗も高くなり、いびきをかきやすくなります。お酒を飲んだり疲れているときに鼻が詰まりやすくなるのも、この副交感神経のはたらきによるもので、体を休ませようとするためなのです。
このように、私たちが起きているときと眠っているときでは呼吸生理も変化します。眠っているときの呼吸は、起きているときに比べて不安定になりやすいといえるのです。